三菱重工グループでは,事業を通じてカーボンニュートラル達成に貢献することを最優先事項として取り組んでいる。これを達成するため,化石燃料の燃焼で得ていた熱源を電化ヒートポンプへシフトすることは有効な打ち手の一つである。三菱重工グループでは,このヒートポンプ技術を用いて,ランニングコストも低減したヒートポンプ商品を市場展開し,幅広いお客様に使用していただき,社会全体でCO2排出量削減を図っている。引き続き,これら技術開発を通じてカーボンニュートラルの達成に貢献していく。
カーボンニュートラルは,世界的潮流であり,その達成に向けた動きが加速している。自動車業界も例外ではなく,ハイブリッド車,電気自動車(以下,EV:Electric Vehicle),及び燃料電池車など,車両の電動化が2000年代から始まっている。現在では, EVの市場伸長が確実視されているが,一充電での航続距離確保が普及のキーであり,大容量バッテリ搭載は一つの解決策であるが,急速充電時のバッテリ発熱が大きな課題となっている。そのため,バッテリを適正な温度に制御する大容量の熱管理システムが必要不可欠になりつつある。
三菱重工サーマルシステムズ株式会社は,上記の背景を踏まえて,2007年にハイブリッド電気自動車空調システム用として電動コンプレッサを市場投入している。そして近年の空調用冷凍サイクルを活用した急速充電時のバッテリ適正温度維持(冷却)や,寒冷条件時のヒートポンプ暖房能力拡大,等の新たなニーズに対応するべく,高効率な大容量電動コンプレッサを新たにシリーズ展開した。これらの製品技術は,EVの実用性向上による当該車両の普及促進をとおして,自動車業界のカーボンニュートラルに向けた取組みに貢献している。
本報では,技術の中核をなす新型の大容量電動コンプレッサの特長とともに,ライフサイクルアセスメントの取組みについて紹介していく。
ターボ冷凍機は,主に工場空調用熱源や地域熱供給用熱源として使用されている。家庭用エアコンと同様に電気料金が運用コストの多くを占めるため,省エネが重要となるが,お客様自身で設備状態を正しく把握し,エネルギー効率の改善につなげることは難しい。さらに,長期運用になれば,保守履歴管理の難しさが加わり,効果的なメンテナンスを実施することも困難となる。これらの課題を解決すべく,三菱重工サーマルシステムズ株式会社製冷凍機を導入頂いたお客様が機器の仕様やメンテナンス計画·履歴,運転データを一元管理できるポータルサイトを構築し,お客様における運用の省力化に寄与する情報の可視化を実現した。さらに,ターボ冷凍機のIoT化と組み合わせることで,エネルギー効率·損失の可視化を行い,データに基づいた省エネソリューションの提供を開始した。
近年ルームエアコン市場においてインバータ機が拡大しており,比較的電源品質の悪い国・地域にも広がっている。電源供給が不安定な向け先では停電発生頻度が多く,対策として非常用発電機を導入している事例が多い。
発電機は商用電源に対して更に電源品質が悪い場合があり,このような劣悪な電源環境から電気回路の保護を低コストで実現する手法が必要である。 これに対して,入力電流波形から入力電流の歪みを算出し,その歪みが改善する方向へ制御することで,常態的な電源電圧の歪みがある環境でも,入力電流歪みへの影響を打ち消して,安定して動作することができるようにした。
これに加え,先述の入力電流波形より,瞬間的な過電流を検知することで,コンバータ制御の電圧振幅変調率を瞬間的に調整し過電流を抑制または即時にコンバータ制御を停止するなどの手法が導入できるようにして,従来対比でより強固な回路保護性能を実現する回路制御方式を構築した。
三菱重工サーマルシステムズ株式会社(以下,MTH)のターボ冷凍機コントローラはMTHオリジナル製品であるが,新旧での違いが大きく互換性の確保が難しいため,最新コントローラに交換することができなかった。
しかし,市場には10年以上前に発売された旧型コントローラのターボ冷凍機も多く稼働しており,これからも長く使われていく。お客様が安心してMTH製ターボ冷凍機を長期運用していただけるよう,旧型コントローラと互換性のある最新機能を有するリノベーションコントローラを開発した。
現在,ビル空調の省エネの一手法として冷房設定温度を上げることが推奨されている。しかし多くの空調機器は乾球温度制御に限られており,梅雨時には潜熱分の除湿能力が不足し,不快感を発生させる場合が存在する。この不快要因である潜熱負荷は換気による外気導入に一因があることが多い。
今回,従来の外気処理用直膨式エアハンドリングシステムに,露点温度を制御する冷却除湿機能と排熱利用再熱機能を追加した調湿外気処理直膨式エアハンドリングシステム(ダイレクトX Comfort)を商品化した。本機は,再熱用熱源にヒートポンプ排熱を利用することで,再生用熱源に電気ヒータを用いた従来のデシカント方式対比で消費電力60%低減を達成した。